経験したことのない音ーJajouka

さて、モロッコと音についてもうひとつ。

ローリング・ストーンズの最初のリーダーはブライアン・ジョーンズ(Brian Jones)。
彼は暴力的で、麻薬に依存し破滅型の人物でしたが、「音」に対しては天才だったといいます。
どんな楽器も即座に弾きこなしたそうです。 
確かにその演奏も、繊細で、曲に神秘的な奥深さを加えるような素晴らしいものでした。


彼は麻薬依存のため、演奏もできなくなり、結局ストーンズをクビになるのですが、その一ヶ月後に自宅のプールで死んでいるのが発見されます。
今では、この死は自宅工事に入っていた業者による殺人というのが定説になっているようですが、彼はこのとき27歳でした。まさに夭折した天才です。


話が少しそれますが、こういう傑出した才能は、その人の人格とはまったく関係がないのですね。
「アマディウス」の世界です。サリエリは、崇高な音楽の才能を、下品なモーツァルトに与えた神に対して怒ったわけです。


話をブライアンに戻しましょう。
彼は1968年、モロッコのタンジール近くの村、ジャジューカ(Jajouka)を訪れます。この村には伝統的に受け継がれている儀式音楽があり、彼はそれを録音しに来たのです。
この音楽は、ライタという笛や打楽器で延々と回帰的に同じ旋律を繰り返し、参加する聴衆が一種のトランス状態になっていくというもの。
彼はこれが気に入り、編集してひとつの作品にしようとしたのです。
しかし1969年に彼は亡くなってしまい、結局レコード化されたのがその2年後。彼にとっては、ただひとつの作品となりました。


この「ジャジューカ」の音がすごいのです。
もちろんロックともR&Bとも何の関連もありません。
私は変わった音が好きなので、いろいろな民族音楽、珍しい楽器を聴いてきましたが、これにはショックを受けました。
「あぶない」と思いました。「トリップしちゃう」


トリップといってもハイになるわけじゃない。
何か砂漠のような、色彩もない茫々とした世界が目の前に広がってくるような感じでした。
彼の麻薬体験が反映されているのかもしれません。
いや麻薬体験というよりも、麻薬によって唯一の拠り所である「音楽」をすることすら、ままならなくなった彼の虚無の世界でしょうか。
私にとって、音で虚無を感じたのは初めての体験です。


何かそこから先は何もない行き止まりの世界のようで、しかし彼にとって行きつく世界は、ここしかなかったのかもしれません。
なぜ彼はこれだけの才能を持ちながら、ここまでの逸脱と退廃へと自分を追いやっていったのでしょう。
生前彼は、母は自分を愛してくれなかったと言っていたといいます。
そんなことを聞くと、職業柄、どうも深読みをしたくなります。


しかしもしかしたら、この音に虚無を感じ取るのは、私自身の問題なのかもしれません。


ジャジュカという現地の言葉の意味は「何か良いことがきっとあなたにも起こる」という意味だそうです。

なんという皮肉でしょうか。


プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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