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感じを大切に

昔のお話ですが、森田療法の創始者、森田正馬博士が独自の治療法を展開したのは、第二次大戦がはじまる前の日本です。
その頃の日本は、大戦前夜の閉塞的な社会で、言論の自由はありませんでした。
森田正馬は医師で大学の先生、発言は別に政治的なことではありません。でも講演の会場には特高が配置されていたようで、不都合な発言があると「弁士注意!」と声がかかったそうです。
では、森田博士は何を言って、特高に目をつけられたのでしょうか。

それはなんと「人間には生きたいという欲望がある」という意味のことです。
現在の私たちが聞けば、当たり前のことです。
私たちの大部分は死にたくないし、できるだけ長く生きていたい。それもよりよい形で。

ところが、軍国主義の世の中では「生きたい」などと言ってはいけない。
国家のためには死をもいとわない人間が求められたのです。
それで皆、内心はどうであれ、軍国主義に同調するようにふるまい、戦時下を生き延びていたわけです。

こんなふうに人間にとって、根源的な欲求、感じが何かの「思想・主義」によって圧殺されてしまう社会があった(多分世界のどこかには今もある)なんて、恐ろしいことですね。

でもひるがえって考えると、「生きたい」という言葉は、当たり前であるがゆえに力強い言葉です。
理屈、論理を超越した人間の根源的欲求です。
(フロイトは死の欲動ということも考えました。あるいは、それもあるのかもしれません)
そしてこの根源的な欲求をベースにいろいろな欲求が派生し、そこからまた感情が生まれてきます。

欲求は人間に自然に備わったものであり、感情も感じもまた自然発生的なものです。
人間社会の価値判断の外にあるものです。
否定することも押しつぶすこともできません。

ところが人間は、ときとしてこれを否定しようとします。ちょうど軍国主義が「生きたい」という当たり前の欲求を否定したように。


私の例をあげましょう。
私は、昔から非常に原子力発電にこわさを感じていました。それで今回の原発事故はどうにも恐ろしくてたまらなかった。身体の調子を崩すくらいでした。
大げさですが、まるで地球がこわれてしまうくらいの感覚がありました。
笑われるかもしれませんが、それが私の感じであり、心の事実です。

しかし、これが「考え」になるとどうでしょう。「でも、日本の電気は原発がなければまかなえないのだろうし・・・」とか、「電力会社は安全だと言っているし」とか、「地元の雇用になっているし」とか、いろいろと考えて自分を納得させようとするかもしれません。

そういう論理で、他人を納得させようとする人もいます。
人が人を納得させるには論理で攻めるしかないと、私たちはそう教わってきたのですね。

論理ではどんなことを構築することも可能です。
議論をしているとわかると思うのですが、論理で論理を言いまかすことは簡単だし、それが事実とかけ離れた机上の論理だったらなおさらです。
どれだけ言葉を駆使できるかで、議論の勝ち負けは決まります。
一番強いのは事実にもとづいた論理ですが、大きな議論になると、このグローバルな世界で何が本当のことなのか、そのあたりもあやふやだということが起こります。


「感じ」と「考え」は違うのです。
いくら頭や論理で納得しても、感じが納得しないということは毎日いくらでも経験していると思います。
感じや感情は私たちの根源的なところに根ざしています。
いくら不愉快な感じであっても、それは心の事実なので、大切なものです。不愉快でも認めてあげないといけない。

でも「感じ」や「感情」だけ尊重すればいいというわけでもありません。
人間には「理性」もあります。
森田正馬は、人間は「感じ」と「理性」を調和させながら生きていると言いました。

相手の言葉にムッとした。しかしいくら何でもここで怒ったらまずいだろうと理性が判断して対応を考える。
その逆に、ここで言っておこうと理性が判断する場合もあります。
臨機応変です。
そういうことを私たちは日々、意識せずに行っているわけです。
その「感じ」と「理性」が臨機に動き、調和した状態で私たちは日々生活しています。


ところが感じが暴走することもありますが、理性が暴走することもあります。
冷静に考えればこうなのだから、その「こわさ」はおかしい・・・そういうことを言う人が時々います。
しかし、こわいものはこわい。
不安なものは不安。
いくら理性的に説得されても、それを否定することはできません。


こうやって自分のなかで、何かの違和感があっても、論理や理屈で自分自身を説得してしまおうとする人もいます。
そういうことを続けていくと、いつしか人間は自分の本当の感じを見失ってしまうこともあるでしょう。


感じを押し殺さず、自分のなかでしっかり受け止めることを、私たちはおろそかにしてはいけないと思います。
感じや欲求こそが私たちの根源的な「生」に根ざしたものであり、一番自然なものであり、良いも悪いもない、真実なのですから。
プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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