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「まかせる」ということ

心理学専攻の学生たちがするトレーニングゲームのひとつに、「TRUST FALL」というのがあるそうです。
私は経験したことがありませんが。

これは、しごく簡単なゲームで、まず二人の人が前後に並んで立つ。一人の人は前の人の背中を見ている位置です。で、前の人は後ろに倒れ、後ろの人は倒れてきた前の人を支えるのです。
あるいは、集団で行うときは、グループが円になって一人の人の周りを囲み、その人が後ろに倒れるのをグループの人が支えるのです。

簡単なゲームです。
しかし倒れる人にとっては、これはすごく恐ろしいことではないでしょうか。
後ろに人が立っていて、自分を支えるために準備して待ち構えている。
けれど、その人の姿は見えない。後ろの人を信じて倒れなくてはならないのです。

自分の力ではなく、他人の力を信じてまかせるということです。
特にこのシチュエーションでは、同じクラスの学生ですから当然信じてOKの人です。
でも、それなのになぜか怖いのですね。

まかせるということ、他者を信頼するということは、結構むずかしいことなのでしょう。

でもときには、自分を信頼できない。自分にまかせることができない人もいます。
強迫神経症の人たちも、そんな人です。

自分の感覚が信頼できない。だから何度も何度もカギを確認してしまう。
確認を繰り返しているうちに、しまいには頭のなかが混乱してきて、いったいこれは閉まっている状態なのか開いている状態なのかもわからなくなってきます。

なぜこんなことが起こってくるのでしょう。
簡単です。自分を信頼できないからです・・・と言ったら、ここで話は終わってしまいますね


では自分のどこが信頼できないのでしょう?

自分の自然な感覚や直観です。

「私」という存在の殆どは、自分自身の内なる自然性に生かされている存在です。
身体活動も一部の筋肉を除けば、内臓など自然に動いてくれていますし、感情も感覚も自然に湧いてきて、私たちを適切な方向に導いてくれます。

ところが、神経症の人は知性や理性優位の人たちです。どこかで知性や理性で自分のすべてをコントロールできると勘違いしているフシがあります。

普通カギを閉めるとき、それは習慣でやっていることですから、自分の感覚が「閉まった」と確信して私たちは次の行動に移っていくのです。
ところが強迫神経症になると、この感覚が信じられない。それを知性や意識で把握しようとします。そして意識的に解決しようとします。
そうなると不思議なことに、確信ができない状態になっていくのです。
なぜでしょう?

私たちの心には奇妙な働きがあり、ひとつのことを思い浮かべると必ずその反対のことも同時に思い浮かべるという性質があります。
これを「精神の拮抗作用」と言います。

例えば「戸締りしたし安心、しっかりカギをかけるとホッとするわ」と思うと、同時に「いや、でももしカギがきちんとかかってなかったらどうする?」という考えが浮かんでくる。
これを反対観念といいます。

普通これは、ふっと浮かんで消えていくものですし、それがあるからこそ、私たちは安全な生活ができるのです。

ところが強迫神経症の人は、過度に意識的であるがゆえに、この「反対観念」をつかまえるのです。

そしてこの「閉まっていないかもしれない」という思いを撲滅しようとします。
それはつまり、何度も頭で「閉めた! 閉めた! 閉めた!」と確認することです。
ところが、それをやればやるほど、頭の中は反対観念に注意を向けた状態になるので、「閉めた」という確信からはどんどん遠ざかっていくのです。

細かいノウハウは省略しますが、森田療法的な方法では、その人の欲求を伸ばしつつ、自分の自然な感覚への信頼を取り戻せるようにしていきます。

つまり自分の自然性を信じ、まかせるということです。
指先に感じられるカギの閉まる感覚。頭のなかの考えよりもそちらのほうを信頼することです。
そして、ドアを離れる。
次の行動に移っていくのです。

強迫神経症の人は、不安が強いので、何もかも過度にコントロールして、安心を得ようとします。
けれど私の頭脳や知性は、私のほんの一部分でしかない。
それで私のすべてをコントロールすることはできないのです。

でも、私が何もしなくても、私の自然性は私を守るほうにがんばってくれているのです。
それを信頼することです。

もうひとつの方法は、結果を引き受ける覚悟です。

これだけがんばって確認して、それでもまだカギが開いていて、泥棒に入られたらそれはしかたありません。
そのときには、その対策を考えようと思うことです。
どんな恐ろしいことが起ころうとも、故意にしたことではありません。
覚悟して甘んじて引き受ける・・・この決心は想像するだに怖いことですが、こう覚悟することで強迫観念が楽になったという人もいます。


自分の自然な感覚にまかせるということは、強迫神経症の人にとって、ちょうど「TRUST FALL」で、後ろに倒れかかると同じくらい怖いことだと思います。
いわゆる「恐怖突入」ですね。
後ろにいるのは、自分の自然な感覚。本当は信頼できるものなのですが、やはり知性を過度に信頼している人にとっては、「大丈夫なの?」という感じなのでしょう。


でも、この場合「結果を引き受ける」って・・・「後ろの人が支えてくれなくても・・・」ってことになるのかな。
あ~、やはりこれは、無理です。

想像するだけで怖いっ・・・・


注:TRUST FALLは、森田療法の技法ではありません。
  私のカウンセリングにきてもこんなことはしませんから、ご安心を
プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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