子供の心身、大人の心身 その2
「遺伝子はダメなあなたを愛してる」(福岡伸一、朝日新聞出版)に、こんなエピソードが載っていました。
これは、生物学のエッセイなのですが、実験用に飼育しているネズミの話。
ネズミの子育てにも個性があり、一生懸命子供をケアするネズミと、逆にほったらかしのネズミとがあるそうです。
そして面白い研究があり「よくケアされて育った子ネズミはどちらかといえば落ち着いてリラックスした大人に育ち、あまりケアされずに育った子ネズミは警戒的で、いらいらした大人に育つ傾向が見られるというのです」。
これは副腎からのコルチゾールというホルモンと関係するらしいのですが、詳しいメカニズムは、この本に書いてありますので、興味のあるかたはお読みになってみてください。
もちろん、そのまま人間に当てはまるかどうかは、まだ検証されていないとは書いてあります。
そして先日、ネットでこんなニュースが流れました。
やはり同じようにネズミを研究した名城大学のグループが、思春期にストレスを受けたネズミが、成長して精神疾患、うつ病を発症する率が高いということを証明したのだそうです。
実はこれらのことは、心理学の世界では、今までも通説で言われていたことです。
つまり、過剰なストレスを受けて育った子供はストレスに弱くなる。
(ストレスに強くなるのではないんですよ!)
思春期までに大きな喪失を体験すると、「うつ」になりやすくなる。
こんなふうに検証されて、あらためて感じることは、子供時代の大切さ。
先日のブログでも言いましたように、子供たちは、大切に育てられるべき存在なのです。
もちろん、ストレスのない生活などあり得ませんし、喪失などそこらへんに転がっています。
大切なのは、きっとそれをフォローし、見守る大人の存在なのではないでしょうか。
いわゆるAC(アダルト・チャイルド)という人たちは、子供として大切に育てられるべき時期に、大人扱いされてしまったり、安心して子供でいられなかった人たちのことです。
「AC」というと、必ず「なんでも親のせいにして!」という反発が聞こえてきます。
意外にこの反発は根強く、ACとかトラウマというものは、幻想だということを主張した本まであります。
日本などでは、きっと「親には感謝すべき」という儒教的倫理観も影響しているのでしょう。
「なんでも親のせいにして!」と不快感を表す人たちは、多分、ご自身も何らかの苦労を抱え、それを乗り越えてきたという自負のあるかたなのだと思います。
それなのに、泣き言(と彼らには聞こえる)を聞くと、がんばって乗り越えてきた自分のなかの感情がかき乱されるのだろうと思います。
しかし、実際にACという特徴を持った人たちは存在しますし、さきほど書いたような生物学的な裏付けもだんだん出てきています。
「親のせいにする」とか「しない」とかの精神論ではなく、生物としての人間が幼小児期、思春期に経験したことの質が、その後の人生にどのように影響を与えるか。
そんな基本的、生理的なところから、ACやトラウマ、うつなどを考えていく研究が、どんどん盛んになってくれるといいなと思います。
(この本は生物学の本で、ACの本ではありません)