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複雑さを嫌わない

森田療法のベースになる世界観は一元論です。
というのは、もういろいろなところで言っているので、ご存じのかたが多いと思います。
森田正馬自身も、形外会のなかでそう断言しています。

一元論というのは、非常に漠然とした言い方ですが、二項対立で世界をとらえない考え方のことです。

正邪、善悪、美醜、完全・不完全、幸不幸、勝ち負け、100か0か、好きか嫌いか。
これらは皆、二元論的な考え方です。
西洋的なものの考え方の根底にあるのは、ほとんどが二元論です。
これは一神教であるユダヤ教、キリスト教の影響と言われています。
教義の影響ではなく、世界の最初に「神と人」とがあり、常にこの二者で世界が語られるからだとか。

(もちろん「一元論」と「二元論」を対置するのも二元論なので、世界は究極、一元論に集約されていくもののようです)

たいていの場合、私たちは二元論的な考え方をしています。
そのほうがものごとのとらえ方がはっきりするし、簡単にわかったような気がするからです。
心のなかもすっきりします。
「あの人が悪い、あの人に責任がある、私に責任はない」
「これが正しい、だからこれをしない人は間違っている」

一元論は複雑で曖昧です。
全部がグレーゾーンになります。
観念化はなかなかむずかしい。
たくさんの言葉を費やして、ものごとを表現しなくてはなりません。
事実、事実、事実・・・です。

さて、森田療法が二元論を嫌う理由は上記で推測できたと思います。
二元論で決めつける、分かった気になる、それは教条化に通じます。
ものごとには様々な側面がある。
様々な側面を見れば簡単な決めつけはできない。

そのため、森田は神経症の人によく「具体的に言うように」と言います。
具体的に言うと、ものごとがそれほど簡単ではないことがわかる。
自分がいろいろな決めつけをしていたことに気付くのです。

例えば森田は「私は寝坊で困っています」という人にこういうふうに質問します。
「何時に起きるのか?」「何時に寝るのか?」
そして「そんなに遅く寝てその時間に起きるのは、決して寝坊ではない」と言います。
(記憶で書いていますので)多分、もっと早く寝ろとか、そういう指示はなかったと思います。
ただ「あなたが自分を寝坊というのは思い込みだ」と指摘しただけだったと思います。
「事実」ですね。

だから形外会での森田の話は、ほとんどがたとえ話や具体例です。
そうやって具体的に考えていくと二元論的に凝り固まった世界観が、すこしずつほぐれていく。
世界はもっと複雑だということが見えてくるのです。

世界の複雑さ、人の心の複雑さが見えるのは、面倒くさそうですが、二元論的な考え方をしていた人には新鮮な発見が多いのではないかと思います。

人の心も自然も世界も、もっともっと複雑なものです。
そして微妙なものです。
精妙に動いているものです。

そういう複雑で精妙なものを嫌わずに、決めつけずにもっと知ろうとする。
そうすると、私たちの知識も心の世界も深化していく。
それは私たち自身の成長にもつながるものだと思うのです。

*今年もブログをご愛読いただき、ありがとうございました。
 皆様にとって来年が素晴らしい年でありますように。

海、熱海

プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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