老いについて その2 アルツハイマー病の謎

米国でのアルツハイマー病の研究にNUN STUDY(尼僧研究)というものがあります。

これは、デヴィッド・スノードン博士という疫学の専門家が1986年に始めた研究で、今では様々な分野の学者が参加してアルツハイマー病と加齢について研究するプロジェクト。現在まだ継続中のものです。

なぜ「尼僧研究」なのかというと、これはノートルダム教育修道女会に所属する修道女678名を対象にした調査研究なのです。

尼さんは、生活習慣も環境も食生活も大体同じ。
研究していくうえであまり雑多な要素を考えなくてすむ均一性の高い集団なのです。

参加者の年齢は75歳以上の人たち。彼女たちは献脳することも承諾しています。
人類のためなら自己犠牲もいとわないのですね。

まだまだ仮説にすぎませんが、だんだんとアルツハイマー病の謎の核心に近づきつつあるようです

アルツハイマー病は未知の部分が多い疾患です。
遺伝子が原因と言われていたこともありますが、同じ遺伝子があっても高齢になるまで発病しないで終わる人もいれば、発病してしまう人もいる。

死後に脳を解剖してみると、完全にアルツハイマーに侵された脳なのに、その人はまったく正常な知的活動をしていたということもある。

さて、この研究で出た結果の一端をご紹介します。

まずは、言語能力との関係について。
この尼僧たちが20代初めに入信するときに書いた自伝の文章と、60年以上たってからその人がアルツハイマーになるかどうかに関係があるという発見です。

少しこわい結果なのですが、その自伝の文章が非常にシンプルで、意味密度が低いと、その人は80%の確率でアルツハイマーになっている。
ところが、意味密度が濃い文章(これはむずかしい概念でよくわかりませんが、単語10個あたりに表現される命題の数が多いということらしいのです。簡単に言えば、複雑な文章)を書いていた人はアルツハイマーになりにくい。

つまり、その人の若い頃の言語能力がアルツハイマーになるかならないかを予言しているという結果が出たそうなのです。

しかし、これから先は仮説になります。
ひとつは、シンプルな文章を書く人はもう20代からアルツハイマー的な変化が脳に起こっているのかもしれない(アルツハイマーは長期にわたって進行していく病気です)。
あるいは、言語能力の低さが、脳のアルツハイマー化を促進してしまうのかもしれない。

いずれにせよ、語彙力・読解力・文章力を鍛えることは、脳の基礎体力を養うようなものらしいのです。

確かに文章を書くことは、「読む」ことに比べてものすごく体力を使いますものね。
(私など体力がないので結構疲れ果てます)

とにかく老いても(いや、若い頃から)学ぶ、知的活動をするということは、痴呆を防ぐためには大切なことなのでしょう。

ただいくら知的活動をしても、脳卒中になったり、心臓病になったり、うつ病になったりすれば、アルツハイマーを発病する確率は高くなります。
また頭部に怪我をするのも危険因子。

煙草をやめるとか、健康的な生活をして、病気を予防することも大事。

そのほか、この研究で今のところわかってきたことは、栄養面では、抗酸化物質を含む(特にリコピンと葉酸)新鮮な野菜・果物をとることがアルツハイマー予防になること。

そして、適度な運動をすること。

また前述の自伝文章の研究では、文章に前向きな感情がたくさん出ていた人のほうが、悲観的な人より寿命が長いという結果も出ていたようです。

まだまだ画期的な発見がありそうなこの尼僧研究をまとめたのが、下記の「100歳の美しい脳」という著作です。

このなかには、修道院の高齢の尼僧の人たちの生活や、彼らとの交流が楽しく描かれていますが、こんなに温かい仲間集団で余生を過ごせる人たちがいるなんて、うらやましいと思ってしまいます。

そしてまた、彼女たちが高齢でいながら、実に意欲的であることにも驚きます。

66歳で決心してアフリカにわたり、自分の夢だった奉仕活動をしたシスター。
ずっと教鞭をとりながら71歳で修士号をとったシスターは、97歳で引退!
毎日一組のミトンを編んで寄付していた105歳のシスター。

歳をとっても、まだまだいろいろなことができそう、と思わせてくれる本です。



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プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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