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トニ・モリスン

ずっと「読書ブログ」を書きたいと思っていました。
けれどブログを別個に作って書くほど、このところの読書量は多くはなく、かえって面倒かもしれないと逡巡して、結局ここに書くことにします。

以前はもっと映画のことや本のこと、アートのことを書いていたのですが、最近は森田療法お勉強ブログのようになってしまい、何か不完全燃焼感がありました。

まぁ、私のブログなので何を書いても私の自由。

昨今の米国の状況を見て、トニ・モリスンのことを書きたくなりました。

以前私は、短編よりも、長くてテーマが重い小説を好んで読んでいました。
たとえばドストエフスキーなどです。
けれど最近どうもドストエフスキーが「観念的」に思えてきて、本は全部手放してしまいました。

偏愛しているのはフォークナー。
そのフォークナーの味わいと、ドストエフスキーの重さを兼ね備えた小説に出会えたと思ったのが、トニ・モリスン(Toni・Morrison,1931-2019)の「ビラヴド(Beloved、1988)」です。

トニ・モリスンは黒人女性として初めてノーベル文学賞を受けた作家です。

この小説の舞台になっているのは、19世紀半ばの米国。
逃亡奴隷セスは、地下鉄道(黒人の自由州への逃亡を助ける組織)を頼って子どもたちを連れて逃げます。
しかし途中で追手が迫り、セスは思い余って2歳になるわが子を殺してしまいます。
この子が自分と同じ奴隷になるのならばむしろ・・と、思いつめた結果です。

セスはこの子を葬り、墓碑銘に「ビラヴド(愛されし者)」と刻みます。
娘と二人、そして元のプランテーションで一緒だったポール・Dと暮らしているセスのもとに若い女性が現れます。
彼女は「ビラヴド」と名乗り、セスはこの女性は自分が殺めた幼児の幽霊とさとります。
ビラヴドは、セスの愛を独占しようとセスを支配し、セスもまた罪悪感からビラヴドに易々と仕えるようになるのです。
それはまるで、セスがビラヴドの奴隷になったかのような状況でした。

そんな何か寓話的な雰囲気のなかで物語が展開するのですが、何よりもすごいのが、ここに出てくる過去の奴隷たちの描写です。
奴隷たちにはもちろん人権などない。
人間として扱われない。
奴隷は簡単に殺され、その家族は所有者の都合でばらばらに売られてしまう。
気の弱い人なら途中で本を置きたくなるような描写が続きます。

そしてこれが、現在の米国人に大きなトラウマとして残る「奴隷制」の現実だったのです。
モリスンは白人も黒人も、等しく目を背けてきた過去を描きます。
このきつい過去の描写を読者に受け止めてもらうには、小説全体の寓話的な味付けが必要だったのかもしれません。
モリスンの文章には観念的なところもなく、何かの思想を喧伝するようなところももちろんありません。
しかし読了したときの衝撃、確かにノーベル賞級です。

19世紀のこととはいえ、現在の米国の暴動の背景には、このような歴史がある。
そしてまた、アフリカ系米国人にとって今でも差別は存在する。
ビリー・ホリディの歌う「奇妙な果実」のような状況がまた起こっているようです。

彼女は昨年亡くなってしまいましたが、今一度トニ・モリスンを手に取る時期かなと、「ソロモンの歌」を読み始めました。





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ご無沙汰しております。以前、into the wildのブログでコメントしたKTです。お元気でしょうか。僕は、事務所を移転して2年目に入りましたが、コロナの影響で今後はかなり厳しいです。トラブルもあり、うまくいかないことが多いですが、幸い、妻、娘、息子みんな元気にしています。

トニ・モリスン、面白そうなので読んでみようと思います。僕は、自分の経験から、差別とは何だろうかと前々から考えてきました。それは、人は他者を差別しなくても生きていけるのに、という素朴な疑問が出発点でした。おそらく人は、「あの人はああいう人だから、このグループ」、「それに対して私はこっちのグループ」のように、他者をカテゴライズすることで、自分の立ち位置を確認するところがあるのではないかと思います。例えば、職場内での自分の(役職に限らず)役割が自然と定まっていくのは、この現れのように思います。そして、このカテゴライジングによって、「あの人はああいう人だから、〜をする権利はない」などと他者を侵害するようになると、差別となっていく。

差別は連鎖しますから、自分は差別されない側と思っている人も、他の誰かから差別を受ける側になり、自分に返ってくることになります(それに気がつかないということも起きますが)。しかし、元々、差別は自分の立ち位置を形成するための作業から派生していっているので、自分の立ち位置(アイデンティティと言ってもいいと思います)を守るためには、差別をやめられないと思い込む。それが、人が他者を差別をする理由なのかもしれない、というのが今のところの僕の考えです。

そして、このカテゴライジング、おそらく誰もが無意識に、自然にやっていることなので、人はもともと奴隷制などの差別を許容する社会制度と親和的で、1度そのような制度が確立されてしまうとなかなか離れられないのかもしれない、、そんな気もしています。

長文で申し訳ありません。先生も体調にはお気をつけてください。

差別心と不安

岩田先生の新しいブログから、考える機会をいただきました。ありがとうございました。

私の先輩は、人権教育に積極的に取り組んでいました。
その方は、あるとき私に「差別はなくならない」と注意されました。
この意味は、まだわからないところがあります。
ただ、「差別心が自分にあることをしっかり見つめ、社会の中に差別があることをしっかり見つめ、差別心や差別をのりこえていって欲しい」というような意味ではないかと、近ごろ、考えています。
「私に差別心はない」と言う人が、自分の差別心や社会の中の差別に気づいてない例は、確かにしばしば見られます。
先輩からの課題は、今後とも反省しながら考えていきたいです。
そのような私に、岩田先生の今回のブログは、大きなヒントです。

なお、不安も、直接なくそうとするほど、大きくなる。簡単になくせるものでない。どこか差別心と似ているところがあると、前から思っていました。
すると、不安もなくすものでない。不安があることをしっかり見つめ、のりこえていくものだ、と言ってもいいのでしょうか。
でも、これは、自分で感じ、体得していくものですよね。自分は観念的だと反省します。
ただ、岩田先生の本やブログを読ませていただいて、感じ、動く中で、何かをつかみかけているような予感があります。


差別心と不安2

大事なことを書き忘れました。

先輩の言葉は、状況が大事でした。
それは、職場の人権教育の研修会の場でした。
私が「差別を少しずつでもなくしていきたいです」と言ったときでした。
先輩は、「差別はなくならない」と言われたのです。

先輩は、人権教育に熱心に取り組んでいる方です。
ですから、この先輩の言葉は、「差別はそのまま残ってよい」という意味ではないとわかります。

先輩の「自分で考えなさい」という雰囲気から、私のその意味を先輩に直接聞けませんでした。
しかし、その後の自分の学習と反省から、先に書いた意味ではないかと、考えているのです。今後とも課題です。

Re: タイトルなし

KT様 お久しぶりです。コメントとご意見をありがとうございます。確かに自分自身の立ち位置の確認という意味での差別ということはありますね。そういう意味では、立ち位置が不安定な人ほど「差別」と親和的ということも言えます。たとえば劣等感が強い人とか・・。自分に確かなものがないと思っている人とか。考えると本当に深い問題です。

Re: 差別心と不安2

ZEN YAMA様 コメントをありがとうございます。このブログが考えるきっかけになってくれたら幸いです。自分自身のなかの差別心を自覚すること、大事ですよね。人種という大きな問題だけでなく、もっと日常的なところにも私たちの差別心はありますものね。

岩田先生のブログを最近知りまして、初めてコメントします。

日本に住んでいると、差別に対して鈍感になってしまいます。(実際はありますが)
しかしイジメ問題は大きく存在しますし、その辺りは問題が共通するものがあるかなと思いました。

差別問題は根が深いですね。

映画などでもアメリカの人種差別を垣間見たことはありますが、現実にあったかと思うと、本当に信じられません!酷すぎる。

社会が差別をしていると、それに都合良く乗っかり、誤った方法で自分を満足させているのかなー。

トニモリスンの小説、興味深いですね。

いろいろなことを考える良い切っ掛けになるので、また文学やアートなどもご紹介頂ければと思います。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: タイトルなし

ラベンダー様 コメントをありがとうございます。久しぶりに本の紹介を書いたので、こういう記事に共感していただき、うれしく思います。文学や映画やドラマなどは、いろいろな問題を自分の側に引き寄せて深く考えるきっかけになります。そういう意味で大切なものですね。これをきっかけにまたいろいろと紹介させていただきたいと思います。

コメントありがとうございます。
立ち位置はあくまでも相対的なもので、変化していくものだと思うんですが、それを絶対的な確固たるものだと勘違いして追い求めると、迷いの森に入り込むような気がします。
それはそうと、ストーンズは新曲も出しましたね。9月にはGoats Head Soupの拡大版が出るようです。個人的には一番好きなアルバムなので楽しみです。
お身体にはお気をつけてください。

Re: タイトルなし

KT様 コメントありがとうございます。欧州などでコロナのためにロックダウンをしているとき、You TubeでStonesの新曲Living in a Ghost Town を聴いて励まされました。どんなときにも絶対後ろ向きにならない姿勢はいいですね。新しい情報、ありがとうございます。
プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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