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往生する

「往生する」とは、なんとも古臭い言葉ですが、森田療法の用語です。

森田療法というのは、人間の心の微妙な状態を扱っていることが多いので、観念だけではなかなか把握できないことがあります。

私は一昨年、不整脈があると診断され、時々感じる息苦しさもそのせいでしょう、と医師に言われたことがあります。
ただ、服薬するほどのものではないということ。
軽い症状だったのですね。

ただ、そういうふうに言われた後、ある日、自分の息苦しさがとても気になったことがありました。
「嫌だな、息苦しい」と思っていると、どんどん息苦しさが増してきます。
そのとき、ふと思ったのです。
「不整脈があるんだったら、この息苦しさとは一生つきあっていかないといけないんだな。仕方ない」
そのとき、不思議なことにその息苦しさは瞬時に消えたのです。

とあるかたが、メールで同じ体験を語ってくれました。
このかたは「うつ的」になる症状がおありなのですが、こんなふうに言われています。

「うつな時に『自分を見つめないようにしよう』と努力すればするほど辛くなるので、『好きなだけ自分を見つめていいし、どこまで辛くなるか見てみよう』と思うようにしたら、急に『辛さ』がしぼむという体験をしました。『なんだこれ』と思いました・・・」
(ご本人の了解をとって掲載しています)

これは、森田療法で言う「往生」であり、「正受不受」の体験です。
「あるがまま」の体験でもあるでしょう。

このままの自分で(症状があるままで)生きるしかない、と心から納得することです。

「正受不受」という意味は、「正しく受ければ、受けないことになる」ということです。
つまり「苦しい、辛い」ことを、ただそのまま苦しむ、仕方ないと覚悟する。
そうすると、その苦しさは以前のようなものではなくなる(あるいは消える)ということです。

言葉で解説するとどんどん本来の体験から遠くなる気がしてもどかしいのですが、神経症というのは、特定の「不快感」から必死で逃げよう、それを無くそうとしたことから起こってきます。

そうすると精神交互作用が起こり、不快感はますます鋭く感じられるというからくりです。

その不快感から逃げない、感じたままでいようというのが「往生する」「正受」の状態です。

けれどこう説明すると、「そうやったら、症状が消えるのか、ではやってみよう」という方がいるでしょう。
それでは症状は消えません。

そこに「症状や不快感を消すためにやろう」という気持ちが少しでも入っていると、それは往生ではない。

心の底から「もう仕方ない、共存しよう」と覚悟したとき、この心境が体験できるのです。
本当に森田療法って心の微妙なところを語っているのですね。

空と海
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お礼

岩田先生、この記事を書いていただき、ありがとうございます。

共存

 パワハラについても、相手のことを「こんな言い方や、人権を無視した対応をするなんて許せない!」と怒り、次に「私が悪いから言われるんだ」と自分を責めている間はどんどん落ち込んでいき、最終的に圧倒的な無力感とうつ状態に至り、すべてのあがきができなくなった状態で、「もう、ここに至ってはどうしようもない。ただ職場に行って帰ってくるということを繰り返すしかない。」というところまでくると、サンドバックになりながらなんとか日々を送れるようになりました。3月まで共存できるかなぁ・・。


感想

「なるほど」 と思いました。
森田は、感覚的な要素が強いと感じます。
体得できたらいいな、と思います。

お礼2

 岩田先生の一つ前の記事に、私が書かせていただいたコメントには、何か危ういところがあると、自分でも感じていました。
 岩田先生のこの記事から、それが何かいっそうはっきり見えてきました。ありがとうございました。

 確かに、私の場合、教えていただいたこの「往生」ということも、「かくあるべし」になる危険もありますので、注意したいです。

 ただ、最近の私は、「自分に不安やうつがあってもいい」という気持ちも育ちつつあるのです。これは、岩田先生の「流れと動きの森田療法」の本やこちらの言葉を読ませていただいたからでしょうか。このような気持ちは、大事にしたいです。

Re: 共存

とも様 大変な状況のようですね。詳しいことはわかりませんが、「怒り」もそのまま、「うつ」もそのまま、「無力感」もそのままでいるうちに、心は変化していくのではないでしょうか。

Re: 感想

ラベンダー様 コメントありがとうございます。神経質のかたはどちらかというと、論理で考えがちなのですが、森田療法は論理を超えた部分が多いようです。言葉に直してしまったときにわかりにくくなるということはありますね。

Re: お礼2

ZEN YAMA様 前に書いていただいたコメントもそれはそれでよかったですよ。事実は試験勉強のような〇×ではないですから、なんでも自分の自由に感じ、考えていれば楽です!
プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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