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感覚を磨く


画家の篠田桃紅さんというかたをご存知でしょうか?
彼女は墨絵作家で、現在107歳。まだ作品を描いていらっしゃるとか・・。

そのかたの本のなかにこんな言葉がありました。
「感覚は、自分で磨かないと得られません。絵画を鑑賞するときには、解説は忘れて、絵画が発しているオーラそのものを、自分の感覚の一切で包み込み、受け止めるようにします。このようにして、感覚は、自分で磨けば磨くほど、そのものの真価を深く理解できるようになります。(中略)虫が知らせる、虫が好かない、という表現がありますが、虫というのは感覚。自分のなかに虫がいて、それが非常に感覚的に優れていたから、虫にたとえた言い方をしていました。世の中の風潮は、頭で学習することが主体で、自分の感覚を磨く、ということはなおざりにされています。たいへん惜しいことです」(「103歳になってわかったことー―ー人生は一人でも面白い」篠田桃紅)

私も、知らず知らずのうちに、論理と言葉に頼ってしまう傾向があると自覚しています。

論理と言葉に偏ってくると、目に見えるもの、聞こえること、味わうもの・・・なんでも言葉にしてしまう。
そうすると、その言葉ですくいとれない部分のものは、置き去りにされたままになってしまう。
つまり全体を感じ取れていないということです。

けれどあわただしい時間のなかで、つい言葉で全部をつかんだような気になる。
それで急いで前に進んでしまう。
その言葉の粗さに気づいていない。
そんなことが現代ではたくさん起こっているような気がします。

精神療法家のなかには、相手を一目見ただけで、その人のなかの「どこが」病んでいるのかわかってしまうと言う達人もいます。
経験のなかで、感性が最高度に磨かれ、知識とむすびついた直観が働くのでしょう。
そういうことは、実際にあると思います。

私たちが「言葉」や「論理」に頼ってしまいがちなのは、どこかで「感覚」を怖がっているのかもしれません。
何かを感じることによって、心にダメージを受ける体験をしてしまうと、感じることが怖くなり、感じること自体に門戸を閉ざしてしまう。
そして、言葉や論理で武装するのです。

けれど、すべての感覚が自分を傷つけるわけではない。

むしろ、私たちを癒してくれる感覚もたくさんあります。
美しい音楽や絵画。アロマの香り、美味しい料理、ペットの手触り。
そんなものを、ただ心地よく味わう。

「目的」とか「目標」とか「努力」とか、そんなものから少し離れて、自分の感性を解放できたら、今まで気づかなかったものが見えてくるかもしれない。

コロナで社会の動きがスローになっている今だからこそ、味わえるものがあるような気もします。

blue

T.H氏撮影
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感覚の遮断

ずっと職場で女性上司に罵られて、ボロボロになってきたのですが、こないだ罵っている言葉が聞こえなくて聴覚が遮断されている感覚がありました。感覚はそうやって自分を守ってくれるんですね。

お礼 私の課題

 岩田先生、この記事を書いていただき、ありがとうございます。
私のコメントへのコメントも、本当にありがたく、感謝申し上げます。

 「自分の感じたことを大事にする」「感じた内容の中には、言葉で表現できないことがあることを知っておく」「感じ・感性を高めていく」。これらのことは、私がいつのまにか忘れがちなことで、思い出させていただいて、ありがたく思います。
 森田の「感情を受け止める」という内容を「感情を無視する」と間違えていた面が自分にあったと、岩田先生の本を読んで気づかされ、先生に感謝している私です。

 ただ、私は、森田で否定される「気分本位」になってしまうこともあります。たとえば、人の言動に怒りを感じたとき、かなり感情的に怒ってしまって、反省したこともあります。「感情を大事にする」ことと、「気分本位」の違いを体験的につかんでいくことが、私の課題です。
 私の今の理解では、怒りをそのまま感情的に表現することは、「気分本位」で森田では勧められていない。自分が怒っていることをそのまま受け止める。そして、自他の状況を考え、その怒りをどうするか考えいく。これが森田に近いと考えています。今後とも体験を通し、また岩田先生の本を読ませていただき、考えていきます。

感想「感覚を磨く」

篠田桃紅さんの言葉は、重みを感じます。感覚を信じて生きていくことはとても大事だと思います。
 同時に、言葉や論理で武装してしまうというのも分かります。実社会では、武装しないとやっていけない面もあると思います。
 しかし、やはり、自分の感覚を磨いていくことが大切で、それは自分で磨いていくしかない。 
ZEN YAMAさんがご投稿に書かれていますが、「感情を大事にすること」と「気分本位」は違うということ。私も、この辺りはできているかというと自信無いです。課題です。

お礼 私の課題 2

 先にお書きした私の課題、「感情や感じを大事にする」と「気分本位」の違いについて、岩田先生は、このホームページの「感情・直感」や「気分本位」の記事のところで、すでに書いておられますね。
 ありがとうございます。大きなヒントになりました。先に私がお書きしたことも大きな間違えはないとかわかりました。

 また、私の不勉強、すみません。私は、2019年11月くらいから、こちらのホームページで学習を始めたので、それ以前が不勉強なところがあります。今後とも、これまでの記事を読ませていただき、学ばさせていただきます。(自分の感じや考えや生活も大事にしていきます。)

Re: 感覚の遮断

とも様 なんだか大変な状況のようですね。感覚が遮断されるほどの辛さというのは、並みのことではありません。誰にも相談はできないのですか?少し心配です。

Re: お礼 私の課題 2

ZEN YAMA様 いつもコメントありがとうございます。気分本位については、このブログで勉強していただいたのですね。森田先生は、「まず感じ、それを理性が調節する」と言っています。これは多分、誰もが自然にできていることだと思います。神経質のかたは怒りの処理に悩む人が多いのですが、自分は怒るとついこんなことをしてしまう...という自覚さえできればいいのだと思います。怒りっぽい自分を反省するのではなく、認めるだけです。

Re: 感想「感覚を磨く」

ラベンダー様 コメントをありがとうございます。自分の感覚を信じ、磨いていくということは、それをきちんとしていけば、大きな自己肯定感につながっていくのだと思います。自分の「純なこころ」を信じるのと同じことですね。
プロフィール

Author:岩田 真理
心理セラピストをしています。臨床心理士。
昔は編集者をしていました。

森田療法が専門ですが、ACや親との問題は体験的に深いところで理解できます。
心のことだけでなく、文化、社会、マニアックな話題など、いろいろなことに興味があります。

もしも私のカウンセリングをご希望でしたら、下のアドレスにメールをください。
info@ochanomizu-room.jp

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